こんにちは、トミーです。
元々、アルパインクライミングがやりたくて、そのためのトレーニングとしてフリークライミングをはじめました。
そして、フリークライミングで5.11くらいを登れるようになってから、アルパインクライミングも多少やるようになりました。
そんな過去をもつ僕の実感としては、フリークライミングの練習はアルパインクライミングに大いに活きました。
当記事では、「フリーはアルパインに活きる」ということと、これに関連した注意点などについて掘り下げてみます。
フリークライミングの練習は、アルパインクライミングに活きるのか?【結論:活きる】
フリークライミングの練習は、アルパインクライミングに活きます。
フリークライミングの練習は、アルパインクライミングで何故活きるのか?
フリークライミングは、ざっくり簡単にいうと、「アルパインクライミングの中の1ピッチだけを切り取って、その内容を難しくかつシンプルにしたもの」になります。
そして、基本的に動作の流れとしては、フリークライミングとアルパインクライミングではほぼ同じです。
ビレイヤー(確保者)は、ATCを使ってリードクライマーをビレイします。
上記は、フリークライミングとアルパインクライミングで共通の動作です。
つまり、アルパインクライミングを志すならば、フリークライミングでこうした動作に慣れておけば、その後にアルパインの世界にスムーズに入っていくことができます。
そして、フリークライミングを練習することで、アルパインクライミングでもっとも効果を発揮するのは、
岩登りのムーブ技術です。
フリークライミングでは、細かいグレード体系が整っており、目標設定が行いやすいです。
もちろん上達するには、ジムや岩場に通い、地道な練習が必要です。
しかし、がんばって5.11aまで登れるようになったら、基本的にはアルパインの岩場ではぐっと易しく感じられるようになります。
そして、アルパインクライミングでの不安や恐怖を軽減するばかりか、フリークライミングの素養をバックボーンに、安心して登れるようになります。
そういった事実があるために、アルパインではフリークライミング能力は非常に役立つといえます。
アルパインクライミングを目指すなら、フリークライミングから始めたほうが良い3つの理由
1・クライミングシステムの基礎を効率よく理解できる
フリークライミングは、アルパインクライミングの様々な複雑な要素や道具の無駄を省き、クライミングの純度を高め、極限までシンプル化したスタイルです。
つまり、最初にフリークライミングを学べば、アルパインクライミングを学ぶにあたっても理解がしやすくなるのです。
フリークライミングで学ぶべきことは、知識的には実はそんなに多くはありません。
座学やテキストで少々の知識を学んだら、あとはひたすら実践をこなして身体で学べばOKです。
このことが、アルパインクライミングの基礎を身につけることにも繋がっています。
2・アルパインの岩場より難しいレベルの身体技術が身につく
フリークライミングは、比較的安全な環境において、その身体能力の限界を追求するスポーツです。
身体ひとつだけで、垂直以上のあらゆる難しい壁を、身体のテクニックだけで登れる技術を身につけられるわけなので、これはアルパインクライミングにおいても大きなアドバンテージとなります。
フリークライミングである程度のムーブ技術を身につけておけば、アルパインの岩場では大抵困ることはなくなります。
ぶっちゃけ、有名なアルパインルートでは高度なムーブは求められないのです。
フリークライミングでいうところの、5.9以内が大半であり、ごくまれに5.10aくらいまでが出てくる程度です。
5.10aといえば、初心者~初級者のグレードですからね。
3・アルパインの煩雑な作業はフリークライミングの基礎の上に成り立っている
アルパインでは、ダブルロープといってロープを2本使ったり、マルチピッチクライミングのビレイシステムを使ったり、ランナーにはクイックドローではなく、自作のアルパインヌンチャクを使ったり、カムデバイスやナッツを使ったり、といった、諸々作業において複雑な手順が生じます。
作業だけでなく、扱う道具の種類も増えます。
しかし、こういったことの土台には、フリークライミングという基礎があります。
ぶっちゃけすべて、フリークライミングのルーチンワークの上に成り立っています。
フリークライミングで作業やムーブの基礎を学び、アルパインクライミングで応用や工夫を凝らしてゆくイメージですよね。
【余談】1980年代以前はアルパインクライミングが主流で、フリークライミングの概念がなかった
1980年以前は、日本ではまだフリークライミングという概念がありませんでした。
穂高・剣・谷川岳などのアルパインの岩場は、登山靴で登っていた時代でした。
支点はステンレスハンガーボルトではなく、強度の劣るRCCボルトやリングボルトといったものが主流で、ハーケンを大量に持参し、これをベタ打ちしていました。
そして、クライミングシューズがないので高度なムーブも起こすことができず、現代では初級者コースの5.10aみたいなグレードの岩ですら登ることはできないので、前進のために積極的にアブミ(簡易ハシゴ)が多用されていました。
今でも「岩壁登攀」と聞くと、こうしたハーケンをハンマーでカンカン打ち込み、アブミをかけて登るといったイメージが強い人も多いのではないでしょうか。
井上靖の「氷壁」や、新田次郎の「栄光の岩壁」など、有名な山岳小説は今でも人気だったりしますが、その舞台が戦前戦後だったりするので、こうした描写が描かれているからなのかもしれません。
しかし、フリークライミングが全盛となった現代では、こうしたクライミングスタイルは山の壁でもめっきりと見かけなくなってしまいました。
フリークライミングが上達するほど、優れたアルパインクライマーになれるのか?論
フリークライミング能力を身につけたクライマーがアルパインをやるとどんな成果を出せるのか?というテーマは、よく語られました。
世界最先鋭のアルパインクライマーは、フリークライミングも非常に得意
世界の高峰を、より難しいルート(=岩稜・雪稜歩きよりも、岩壁クライミング・氷壁クライミング)から頂上を目指すのが、アルパインクライミングです。
そしてさらに、できるだけ軽量な装備で、スピーディに(さっと登ってさっと降りてくる)、これを達成できたら、記録としては凄く、偉業を達成できることになります。
こうしたことを行うためには、高いフリークライミング能力が有効なことは間違いなく、実際に現代の世界的なアルパインクライマーたちは、フリークライミング能力が高い場合が多いです。
例えば、下記のとおりです。
クライマー | 出身国 | アルパインでの偉業 | フリークライミング能力 |
ウーリー・ステック | スイス | ヒマラヤ山脈 アンナプルナ(8091m)南壁ソロ | ドリュ北壁 North Couloir Direct(M8/5.13) |
ダーフィット・ラマ | オーストリア | ヒマラヤ山脈 ルナグリ(6907m)ソロ初登 | レバノン/Avaatara (9a/5.14d) |
佐藤裕介さん | 日本 | インドヒマラヤ/カランカ北壁(6931m)BUSHIDO 初登 | 城ヶ崎/マーズ(5.14a) |
ちなみにすいません、ウーリー・ステックがフリーで5.13以上を登っている記録がなかなか見つかりませんでした。しかし、確かスイスのアイガーで5.13を含むマルチピッチを登っていたと思います。
上記はあくまで一部のクライマーの、実績の一部にすぎませんが、ほかにも世界で活躍するアルパインクライマーの多くが、フリーで5.13以上の実力を身につけており、様々な初登攀などの記録を打ち立てています。
【要注意】強いフリークライマーが、必ずしも強いアルパインクライマーにはなれない
フリークライミングで5.13が登れるようになったからと言って、必ず強いアルパインクライマーになれるかといえば、そうではありません。
フリークライミングのグレードは、あくまでもムーブの難易度評価に過ぎません。
フリークライミングで高難度のムーブばかりを追求していても、重荷を背負って山を長時間歩き続けられる体力が備わっていなければ、アルパインクライミングどころではなくなってしまいます。
また、シンプルに身体ひとつで、クライミングシューズだけを履いて、軽々と岩を登るフリークライミングとは違い、ごわついたジャケットとパンツを履き、荷物を背負い、多様なクライミングギアをハーネスにひっさげて、重い登山靴にアイゼンを付けて登ることは、フリークライミングの感覚とは完全に別物になります。
さらには、比較的安全快適な環境で登るフリークライミングとは異なり、アルパインクライミングではその舞台は気象条件の厳しい山岳地帯です。
そこに居るだけで寒いですし、ときには雨・雪・暴風などに見舞われます。ガスに巻かれたら方向感覚も失います。こうしたストレスに耐えられなければなりません。
アルパインクライミングには、危険因子が多く潜んでいる【スポーツと冒険は別物】
アルパインクライミングにおいては、その対象の山を登り切るために、複雑多様で困難な要素を秘めています。こうした要素を克服するために必要な能力は、たとえば下記のとおり。
- 危険察知、危機回避能力(天候、落石、雪崩、ルートファインディング)
- 圧倒的な体力(重荷を背負い、長時間連続で行動できる体力)
- 強靭な精神力(隔離された劣悪な環境の山中で、何十日でも野営できる)
- 寒さ、高所の酸欠に対する肉体的耐久性
- 目標を達成するためのチームとしての連携(コミュニケーション能力)
こうした能力つまり、人間としての根源的なサバイバル能力が徹底的に問われます。
もちろん、フリークライミング能力の高さは「ないよりはあったほうが良い」に決まっています。でも、それはアルパインクライミングにおいて必要とされる多種多様な能力の、ほんの一部に過ぎません。
そして、アルパインクライミングにおいて、フリークライミングの実力が生かしきれるかどうかは、そのルートの性質とか、登る時のクライマーのメンタルの状態による場合も大きいでしょう。
岩がボロボロに崩れやすく、また中間支点がまともに取れないような状況で、フリークライミングのときのようなダイナミックなムーブで突っ込めば、掴んだ岩が剥がれ落ちたりして高確率で墜落しますし、支点がとれないと落下距離も大きくなり、死の危険も大幅に高まります。
こうしてみると、アルパインクライミングはあまりにも過酷です。「なんでそうまでして、、山に登りたいの」と思ってしまいますよね・・・。
でも、アルパインクライマーはそうまでして登りたいのです。
ちなみに、僕のアルパインクライミング経験は正直、ほんのわずかにかじった程度の経験です。
もちろん海外の山をアルパインクライミングで登ったことはありません。
そんなショボすぎる僕が言うのもアレなんですが、、
たぶん「自分の持ちうる能力を、最大限度まで発揮し、徹底的に出し尽くした先に得られる充実感を味わいたいから」なんだと思います。
僕の拙い経験でも、僕なりにそのような感覚を得られたことがあります。
自分でもこの世に存在してもいい、自分で自分を全肯定してあげたくなる、こんなに幸せで最高な気分になれるのか!
過去に自分の目標となる山を完登できたとき、そんなふうに思いました。
まとめ
ということで、まとめると以下のとおり。
- フリークライミングは、アルパインクライミングに活きる
- しかし、フリークライミングは、アルパインクライミングのほんの一要素にすぎない
- アルパインクライマーとして活躍するには、山岳でのサバイバル経験を積み、多種多様な能力が必要不可欠
一時期、僕も強いアルパインクライマーに憧れた時期がありましたが・・・、挫折してしまいました。
今後も自分のペースで、クライミングを楽しんでいきたいと思います。
おわり。