空荷日帰りで高所順応ハイキング
6時半起床、7時朝食、8時出発。
朝食はオートミールだったが、
ミルクの量が少なくて口がパサパサした。
りんごの果汁でどうにかごまかしつつ完食。
今日は標高4600mのアイスレイクという場所まで、高所順応を目的として往復する。
このアイスレイクは事前にダワから「景色が雄大で素晴らしい」と聞かされていた。
ブラガの集落の東のはずれから北に入る細い裏道があり、そこがアイスレイクへの登山道の入口だ。
天気は快晴。
11月はネパールヒマラヤでは乾季にあたるため、晴天率が非常に高いことは事前に調べていて知っていた。なので天気が良いのはもはやデフォルトだ。
日帰りハイキングで元の場所に戻ってくるので、荷物は小さなデイパックのみなのだが、そんな荷物ですらもダワが担いでくれる。
完全に空身であり、非常にラクである。
とはいえ、ここは既に3500mを超える高所であり、飛ばして歩くということはできない。
歩いているときに、ダワが話しかけてきた。
ダワ「△◆×※◉〜アルクイック!」
私「アルクイック??」
ダワ「ヤー!」
私は「アルクイック」という単語だけ聞き取ったが、その「アルクイック」がなんなのかがわからなかった。
私「ソーリー、ワットイズアルクイック??」
ダワ「OK、オーケー、なんでもない」
これで会話が終わってしまい、モヤモヤした。
アルクイックって何。。
歩く?クイック?早歩き?笑
空気薄いので早歩きはムリっす。
ゆっくりめにハイクアップしてゆく。
樹木は殆ど生えていないため、見通しは常に良い。
後ろを振り返ると、アンナプルナヒマラヤが徐々に全貌を現してゆく。
富士山の高さを超えるあたりから、腕時計の高度計を意識しだす。
ここから先の高度は、ほぼ未知の領域。
いや厳密には16年半前にモンブランに一度登ってるので、正確にはまだ未知ではないけれど、ものすごく久しぶりの高高度帯に突入する。
酸素が薄いのは、すぐに息切れするので当然に実感する。
いくら荷物をダワに持ってもらっているとはいえ、決してラクな感じはしなかった。
標高4200mあたりまでは急登で、そこから傾斜は緩くなってゆく。
傾斜が緩くなるあたりで、茶屋が一軒。
お茶飲むか?と尋ねられたが、
まだ早いかと思い断った。
風が出てきて気温もけっこう冷える。
振り返ると、アンナプルナ山群は一層雄大な姿を披露した。
さすがにこのあたりから見ると、雄大さがこれまでとは桁違いに感じる。
写真を撮ろうにも、もはや画角に収めることができない。
目の前には恐ろしいほどの存在感でアンナプルナⅢ峰(7555m)が谷底から4000mの高差でズドンと立ちはだかっている。
そのすぐ右には、とんがったガンガプルナ(7455m)
左にはアンナプルナⅡ峰(7937m)とⅣ峰(7525m)。
日本では到底みられない巨大山脈のパノラマ。
圧倒的な質量感。
言葉が出ない。
とにかくみんなもこの場所に来てほしい。
絶対感動するから。
さらに息を切らせて登り、アイスレイクに到着。
アイスレイク
湖面の岸にはうっすらと氷の膜が張り、たしかにアイスレイクを体現している。
だが水はそれほど綺麗ではなかった。
実はそこから少し進むと、さらにもう一つ、そしてサイズが大きめの湖があった。
ここが本日の終着点である。
座ってランチタイム。
宿で持たされたチベタンブレッドを食べる。
美味しいが、大きくてやや硬めの揚げパンなので完食できず、半分残す。
アイスレイク自体には、実はそれほど感動することはなく、
やはり周辺の山々、特に対岸のアンナプルナの景色が凄かった。
そして、この場所の標高は4600m。
歩くペースもゆっくりになり、大分息が切れる。
空気も冷たい。
だが、頭痛はなく、高山病特有の気持ち悪さはまだ発生していない。
(このとき自覚はしていなかったが、後で思えば食欲低下やふらつきなどの症状は出ていた)
こんな場所にどうやって建てたのだろう。。
超絶景だった下山道
しばらく休んでから、下山開始。
無意識ではあったが、長居は肉体的に厳しい感じがした。
来た道を戻るわけであるが、
来る時はアンナプルナ山群を背に登ってきてじっくりと景色は見れないわけだけれども、
下山時にはアンナプルナ山群を正面にして歩くことになる。
勝手に視界にアンナプルナ山群が入ってくる。
どれだけ眺めていても飽きることはない。
物凄い迫力の巨大山塊が視界に入り、
都度都度その眺めを堪能し、
その雄大さを噛み締めようとする自分がいる。
凄い。物凄い。
でかい。とにかく山がデカい。
山がデカいということを味わう自分の感受性。
山がデカいのは、自分の感情を物凄く揺さぶってくる。
つまり「最高!」でしかない。
巨大山塊を眺めて感じることは、自分にとって最高に幸せなのだ。
今思えば、この瞬間。ヒマラヤを感じることにおいては最高潮の瞬間だったのかもしれない。
日本国内どこ探しても、標高差4000mを超える高度差はない。
それがいま、目の前にある。
ここからアンナプルナⅢ峰(7555m)頂上までの直線距離は約12kmであるが、そんなに離れているようには見えない。
白馬駅から白馬岳頂上までの直線距離が約12km程度であり、それと比較すると、かなりでかい。
随分近くに山がある感じがする。
それだけ、雪を抱く岩の高山は、目の錯覚と距離感の認識において錯誤が起きる。
そういう風にヒマラヤの雪山を、なるべく味わい尽くそうと努力した。
何度でも言う。とんでもなく山がでかい。
山がデカいってまじ最高だわ。。
登りが急登だった分、下りはサクサク速い。
途中で、同じ宿に泊まっていたリトアニア女子に会った。
ダワと私が彼女に話しかけた。
彼女は自分の体調と照らしながら、マイペースでゆっくりと登っている感じであった。
下山のペースは快調で、目の前のアンナプルナ山群の見え方はみるみる変化してゆく。
ふとこの時、今朝のダワが言っていた「アルクイック」が何なのかがバチン!と閃いた。
「アースクエイク」だ!!
ダワは今朝わたしに「昨日の夜中、地震あったね。気づいた?」と聞いたのだった。
ダワに言った。
「今朝言ってたのは地震のことだったのね!おお、気づいてたよ。揺れた揺れた!」
ダワ「そーそー。日本も地震多いんだろ?」
私「YES。日本は地震大国だから」
意思疎通の不具合が解決できて、すっきり。
後半はダワよりも私が先行した形になっていたが、
ブラガの集落の手前のやや複雑な道でも迷うことなく、無事に下山できた。
登りは3時間、下りは2時間。標高差は1200mくらい。
大体富士登山と同じくらいの体力消耗度だった。
けっこう疲労した。
「ホテルブッダ」に戻り、
そこから荷物をまとめて、ゴンブーとともに3人でマナンへ移動する。
もう1人の仲間との出会いと高山病
マナンはすぐ隣の集落で、移動はラク。
ここで、もうひとりの若いポーターと合流。
名前はヴィシュヌ。
30歳と言っていたが、もっと若くみえる。
大学生くらいに見えた。
ここでもう1人のポーターと合流した理由は、頂上アタックの為のベースキャンプ用のテントと、私の雪山クライミング装備を、ジープで運んでくる為だった。
ここマナンの集落までは、車両が入ることが可能だ。
そしてここから先の山中は完全に徒歩のみでしか入れなくなるため、ヴィシュヌも一緒に荷物を担いで同行することになる計画だ。
この時、実はアイスレイクへのハイキングの影響で、頭痛が出始めていた。
頭がガンガンと痛み、少し吐き気がしている。
ついに高山病の症状が出てきた。
日本で富士山に登るときも、私の場合は毎回、下山後に頭痛等の症状が出てくる。
時間差で襲ってくるのだ。
一般的には、高度を下げると同時に高山病は症状が緩和されると言われているが、私にはあまり当てはまらない。
今回も同じように、高度を下げてから症状が出てきてしまった。
吐き気もあるので、急に先行きが不安になってきた。
ヴィシュヌとは初めましてだったが、出会いの感動とかに浸る余裕はなく、
すぐに宿の部屋に戻って休むことに。
腹式呼吸と素早い呼吸を繰り返し、なるべく多くの酸素を取り込みつつ、水も飲んで休む。
ちなみに水は、受付で直接2本注文して買った(1本100ルピー)。
1時間半ばかり休んでいたら、どうにか頭痛がとれてきて回復してきた。
良かった。。
もしこのまま症状がとれなかったら、下山を考える必要もあるか?と少し脳内をよぎっていた。
標高3500mあるので、一度高山病になってしまうと戻らない可能性もあった。
しかしどうにか調子が戻り、何よりも食欲が回復してきたので、部屋で昼にアイスレイクで食べきれなかったチベタンブレッドの残り半分を平らげた。
部屋は角部屋で、アンナプルナの眺めが良い部屋をおさえてくれていた。
夕方、食堂に行くとダワがいて、注文を取ってくれた。
ベジダルバート(野菜の豆カレーご飯)を頼んだ。
食事前の時間に、ダワとヴィシュヌと3人で少し喋る。
というか途中からヴィシュヌのテンションが上がり、ダワとずっとネパール語で喋っている。
何言ってるのか全くわからず、黙るしかなかった。
私がベジダルバートを食べたあと、ヴィシュヌがひとりで私の近くまでやってきて、自分のダルバートを手で勢いよくかきこんでもりもり食べていた。
その食いっぷりがすごかったので、思わず眺めてしまった。
ダワとゴンブーは離れた場所で食べていた。
その後はまた暖炉の前でロキシーを飲む。
前日に混雑でここマナンに泊まることはできなかったが、この日もかなりのトレッキング客でごった返していた。
夜寝る前に、宿の入り口の横に売店があることに気づく。
フラッと入ると、ちょっとした色々な小物が売っていて、そこで水を買うと1本50ルピーだった。
宿の中で買う同じ水は100ルピー。
はじめからここで買うべきだった。。
ちなみにタオル代わりに薄い布のスカーフも買った(200ルピー)。
ベシサハールで紛失した速乾タオルの代わりとまではいかなくても、ちょっとした汚れや濡れを拭いたり、何かと便利だろう。