【最高】クライミング映画 “THE DAWN WALL” を観た感想について述べる

【最高】クライミング映画 "THE DAWN WALL" を観た感想について述べる

クライミング映画”THE DAWN WALL”を観てきた。

結論から言うと、横浜市都筑区・イオンシネマ港北ニュータウン(最寄駅:センター北駅)まで1時間40分かけて観に来た甲斐があった。

(映画の上映開始は21時からだったので、早めに行って、駅近のスーパー銭湯「港北天然温泉ゆったりCOco」で湯に浸かってから、上映会受付のクライミングバムへ向かった)



レジェンド・鈴木英貴氏との邂逅

ひょんなことがきっかけで、最近、レジェンド(=”クライミング界のレジェンド”こと、鈴木英貴氏)とは顔見知りになっていた。

氏は1980年代、日本ではフリークライミングが黎明期だった頃、アメリカに長期間に渡って移り住み、コロラドなどで5.14クラスの高難度課題初登など数々の記録を打ちたてたり、ヨセミテ・エルキャピタンでのビッグウォールクライミングを精力的に行っており、日本のフリークライミングシーンに多大な影響を与えた人物だ。

そんな偉大な人物が、今回の上映会ではゲストスピーカーとして招かれているというので、「当日は僕も観にいきます!」と、思わずメールで連絡していたのだった。

レジェンドは目を輝かせながらクライミングを熱く語る

事前に連絡していたレジェンドと上手く合流してコンタクトを取れるかどうか心配だったが、ジムでチケットの引渡しをした後に、その近くでレジェンドが立ち話をしていたので話しかけた。

レジェンドはとにかくよくしゃべる。多分ゲストスピーカーとして話すであろう内容を予め聞かせてもらうことができた笑。

コロラドに住んでいた時に、今回の映画の主役であるアメリカ最強のクライマー、トミー・コールドウェルが近所の子供としてレジェンドと深く関わっており、一緒に遊んだりもしていたこと。

その彼がいつしか世界的なクライマーに成長し、ヨセミテ渓谷の巨大一枚岩エル・キャピタンに世界最難の登攀ライン、DAWN WALLを成功させたことでアメリカ中のマスメディアを賑わせた瞬間にハワイで立会い感銘を受けたこと。

海外のスケールが大きい岩でのクライミングの素晴らしさや、そこに住むことで感じられる非日常の数々の話など、とにかく楽しくて仕方がないという感じで目を輝かせて話してくれる。

ちなみに明日からはこの映画の後そのまま成田空港に向かい、タイ・プラナンへクライミングツアーに向かうとのこと。。

チケット半額のチャンスを逃す

ジムで少し登ってから映画に臨もうかと思っていたが、レジェンドの話を聞きすぎてほとんど登る時間がなくなってしまったw

とはいえ、レジェンドがそのジムのタワー壁に設定したちょいワルの課題を一撃で完登したら映画チケット代が半額の1000円になるというので、とりあえずトライをしてみた。が、あえなく2手目で落ちて終了w

レジェンドいわく、「5.12後半くらいかな〜」

・・・ちょいワルどころか激ワルですねw

そんな感じで、その後は5.11bとボルダー3級を3本ほど一撃してからシネマへ移動。ちなみに課題は中々面白い。

上映会場へ移動、そして・・・

クライミング映画"THE DAWN WALL"を観てきた

入場前は、シネマ受付にて異常な行列。先着348名で完売だそうだが、まさか満杯になるほど人が観に来ているとは予想してなかった。みんなクライマー??
マニアックなジャンルだし、クライミングやってないと観ても理解できんよなあ…と思いながら並ぶ。

上映開始前にトイレへ行き、白桃ピューレソーダドリンクを買い、映画館へ。レジェンドのスピーチ(私に話したのとほぼ同じ内容)を聞いたあとにいよいよ上映。

トミー・コールドウェルに関する知識は、アメリカ指折りのビッグウォールクライマーでベス・ロッデンというこれまた非常に強い美人女性クライマーが彼女であるというくらいしか実は知らなかったのだが、今回の映画はハイクオリティな映像を駆使したDAWN WALLプロジェクト初登の密着ドキュメントとしても素晴らしい出来栄えながら、トミーのなかなか壮絶な半生についても深く掘り下げてきており、エモーショナルな映画であった。

高難度クライミングに悪戦苦闘する描写は素晴らしかった

いちクライマーの目線として、核心部15ピッチ目(5.14d)のデリケートなトラバースの執念のトライの末の渾身のレッドポイント、900mのビッグウォール登攀にありながら、5mmもない薄カチを指3本で押し当てながら、数センチ進むのに何時間もかけている様には生唾を飲む思いで映像に引き込まれた。

トミー・コールドウェルの人生にまつわる感情的な描写はもっと素晴らしかった

エモーショナルな視点としては、トミーがベス他2名とキルギス遠征の時に現地の反政府組織ゲリラ(イスラム過激派)に捕虜として捕らえられ、6日間にわたる軟禁後、隙をみてゲリラの一人を崖から突き落として殺害し、脱出に成功したこと。

そのことがトミーとベスの心に深い傷を負わせたこと。帰国後、大工仕事の際、誤って左手人差し指をテーブルソーで切断してしまい、クライマー生命の危機に立たされたこと。

仲睦まじかったトミー&ベスのクライミングカップルは、その後結婚をしたものの次第に気持ちがすれ違うようになり、10年後に離婚に至ったこと。その離婚はトミーの心に痛烈なダメージを負わせたが、トミーはそのことを忘れようと、取り憑かれたようにしてDAWN WALLプロジェクトに何年も何年も没入していったこと。。

自分の人生に重ね合わせて観てしまい、涙を流した

僕は特に、クライミングそのものよりは、このエモーショナルな部分に強く共感した。よくよく考えたら、「トミー」という名前は偶然にも僕のハンドルネームでもあり、山荘バイト時代の僕のニックネーム(山荘ネーム)でもあった。その彼は、人より知的発達が遅かったが、クライミングの世界に没頭した結果、そこで彼女と出会い、また彼女と破綻もして挫折を味わった。

これはおこがましくも僕の最近の状況と非常に酷似しており、共感のあまり涙すらした。トミーはその後、孤独のなかでDAWN WALLにトライを重ね、無謀な挑戦と言われながらもそれを執念で成功させ、また新たな出会いにも恵まれて結婚し、その後ふたりの子供も得た。

僕も打ち込む対象こそ異なるが、孤独にDAWN WALLに没入するトミーと同じような心理的環境的境遇にある。何か形になるものを、素晴らしいものを残したい。そうした想いに駆られているのは、もはや若くもなく可能性も限られている今の僕のなかにある、偽りのない本音そのものだ。

パートナーのケヴィン・ジョージソンも、主役としてスポットライトが当てられていた

なお、クライミング的かつ作品的には、DAWN WALL核心部において、ムーブに行き詰まっていたパートナーのケヴィン・ジョージソンにも、エモい視点から焦点が当てられていたのも良かった。単に「トミーのビレイパートナー」というサブ的な位置付けで扱われるのではなく、途中からは明らかにケヴィンがクライミング的にも作品的にも主役となっていた。トミーは自分だけの成功を喜ばず、パートナーのケビンの成功を心底応援し、それを辛抱強く壁の中で待ち続けた。結果、ケヴィンも核心部を成功させ、ふたりでDAWN WALLは完登と相成った。トミーのケビンに対する友情にも心が熱くなる。

会場全体の雰囲気を呑み込んだ、驚異的な映画だった

観ている最中に退屈で眠くなることも一切なく、晩御飯を食べ損ねて空腹だったにもかかわらず、そんなことが全く気にならないほどに常に没入ができた映画は久しぶりかもしれない。周りの観客も、事前に売店で買ってる人は沢山いたはずなのに、誰もポップコーンや飲み物に手をつけている人がおらず、映画に完全に吸い込まれている様子だったのが手にとるように感じられて、その意味でも印象深かった。

非常に後味の良い映画だったので、今帰路の電車の中だが、とりあえず忘れないように勢いで記録しておく。