こんにちは、トミーです。
登山歴は、約20年ほど。
この時期になると、富士山は完全に冬の装いとなり、夏山とは別の山へと変貌します。
そして積雪期と変化する富士山に軽装でトライして、滑落遭難するニュースは毎年後を絶たないわけですが、
先日には、ニコ生配信者の富士山滑落動画がニュースになっていました。
亡くなった配信者の方には、心よりご冥福をお祈りします。
この僕も、過去には積雪期の富士山には8回ほど登っており、2009年には厳冬期の富士山に1合目から日帰りで登って帰ってきた経験があります。
もはや大分昔のことになりますが …
日記をつけていましたので、シェアします。
当時の僕が、冬富士を登るにあたり、何を感じ、何を考え、どのように登ったのかを記録しています。
冬富士登山に興味をもつ方にとって、参考になりましたら幸いです。
僕の冬富士登山の過去日記を引用してみる
以下、当時につけた日記の引用となります。
この時期に毎年恒例となっていたKとの伊吹山登山でしたが、今回は天候も悪く、また伊吹には雪もついていないため、目標を変更し、Kの意向により突如厳冬期の富士山を登ることとなりました。
富士山といえば、雪のある時期はこれまでに初冬の11月や春の5月などに登ったことはありましたが、2月という厳冬期には登ったことがありませんでした。
どんなものなのか興味はありましたが、噂によく聞く「身体が持ち上がるような猛烈な突風」や「8合目以上のアイゼンの爪先が数ミリもささらないテラッテラのアイスバーン」などの話を考えると萎縮してしまい、これまでなかなか実行する気にはなりませんでした。
しかも、厳冬期は5合目までのアプローチが難しく、麓の1合目から歩いて登らねばなりません。
伊吹山が標高1300mそこそこの山なだけに、標高3776mある富士山への転向は正直気が重くなるものだったので、ニュージーランドの山岳遠征から帰国したばかりで冬富士登山にノリノリになっているKをいかにして説得して別の山に気持ちを変えさせようかと考えましたが、結局説得はかなわず。
というかむしろ、私のほうが「まぁ行けるところまでは行ってみようかな」と心変わりしたのでした。
なので、Kとは前の晩に車中で寝る前に、
「ひとつだけ約束やねんけど、俺が降りると言ったら一緒に降りてくれ」と言ったら、快く承諾してくれたのでした。
翌日。
6時には起きて準備するつもりが、寝坊して7時に。
Kもなかなか起きてこないので、このまま寝つづけてしまおうかとも思ったが、やっぱり折角なのでKを起して準備を始める。まぁこの時点でもう登頂はムリなので、行けるところまで行って引き返すことになるだろうと思っていました。
泊っていた富士吉田の道の駅を出て、冬季の登山口「馬返」へ。ここは標高1450mで、まさに1合目からのスタート。
時刻は7時45分でした(たしか)。緩やかで快適な樹林帯の広い登山道が続くが、少しづつ路肩には雪が出て来始めます。色々話しながら歩いていたら身体があったまってきて、なかなか気分もよくなってきました。
佐藤小屋をすぎ、6合目への登りに差し掛かる頃、つまり河口湖口5合目登山道と合流するあたりからは樹林帯を出て吹きさらしとなり、途端に風も強くなり、上を見上げると雲がすごい速さで流れています。上部の風はやはり強そうでした。足元の雪面も固く、スニーカーで歩くにはやや恐怖が伴ってきました。ほとんど岩のスラブ(摩擦のない斜面)みたいな感じになっています。
6合目からはアイゼンを装着。
余分な荷物は全てここでデポし、ヘッドランプ・テルモス・わずかな行動食のみを持ち、完全冬山装備で出発。荷物が軽いのでサクサク進みます。
7合目~8合目あたりの登高で、傾斜も出てきて風に磨かれた雪面が固く、太陽光に反射して光っていました。しかし、アイゼンが決まらないというほどではなく、5ミリくらいはささっていたのではないかと思います。5ミリさされば、十分に決まった感覚があります。しかし転んで滑り出したら、まず止まらないくらいの硬さではあります。風も強くなり、時折突風が吹いてバランスを崩したりすることもありましたが、まだ十分に耐えられるレベルでした。
これから登るにしたがってもっと大変なことになるかもしれないなと考えながらも、様子をみながら登ってゆきました。天気は非常によく空気が澄んでいるので、景色を見渡すと、
東は東京湾や三浦半島、遠くは栃木の日光白根山、果ては長野県北部・北アルプスの槍穂高や鹿島槍までがはっきりと視認できました。雲がはるか低いところにたなびいており、改めて日本最高峰の高度感に感動してしまいました。なんだかんだでいつしか標高は3000mを越え、かなり登ってきました。
もうここまでで十分満足できてしまったのですが、天候の条件は良く、また体調も全然余裕があったので引き返す理由がありませんでした。ここまで来ると頂上も手の届きそうな距離に見えてきており、上まで行けるのではないかと思いました。
登ってゆくと、なぜか風が止みました。
確かに西側から吹き付ける風があたりにくいところを選んで登ってはいましたが、無風の状態になることすらありました。
雪面の状態もアイゼンは十分に決まり良好です。
しかしさすがに空気の薄さが身体にこたえ始め、立ち止まって呼吸を整える回数が増えました。
(※2009年2月19日13時21分の富士山。矢印のあたりに我々がいます。)
歩みを進めると、どんどん頂上が近くなってきている感じがしました。
普通、山で目標物をみつけても、その距離は見た目よりもずっと遠く、実際にそこへ到達するまでには凄く時間がかかる感覚があるものですが、なぜか今回は逆でした。
「意外に近いぞ」という感覚。13時55分、吉田口頂上着。登れてしまった。
気温は私の腕時計だとマイナス5℃と出ていましたが、実際にはマイナス14℃ほどあったようです。寒いし時間も圧しているので、写真だけ数枚とってさっさと下山を開始。スキーがあれば・・・と思うような快適そうなバーンでしたが、地道に歩いて下山。転ばないように注意しながらも小走りでサクサクと。
1時間半で6合目着。
ここでしばらくあたりの山々を眺めていると幸せな気分になりました。
やっぱり山は最高です。佐藤小屋から先の樹林帯の下山は、日があたることのない登山道の雪が氷化しており、アイゼンを外して歩くには悪すぎました。
何度か滑って転びそうになりました。Kは2回ほど思いっきり滑って腰をしたたか打ち付けて痛そうでした。一日の中で最も核心だったのは、はっきりいってこの佐藤小屋~馬返までの樹林帯の下山だったと思います。滑らないように神経をすり減らしながら足を運ばないといけないので思うように飛ばすこともできませんでした。
それでも日暮れ前の17時25分頃、無事馬返に下山完了。標高差約2300m、行動時間9時間40分。
右足裏にはマメもでき、ふくらはぎも痛くなり、さすがに疲れました。その後、Kの住居がある松本まで連行され、
銭湯でさっぱりしてからしゃぶしゃぶ食べ放題&呑み放題で疲れた身体を癒してK宅にて一泊。翌日は天気も悪いので、松本在住の友人Cおよびその彼氏と合流して食事をしたあと、市内南部にある小さなジムでボルダリングをしてから帰宅。充実しました。
冬富士登山の難易度はどんな感じ?
装備は、完全厳冬期登山の装備が必須です。
技術的には、基礎的なピッケルワークとアイゼン歩行ができたら、あとは天候と気象条件に恵まれれば、冬の富士山の登頂は高確率で可能です。
しかし、冬富士登山の難易度評価については、一概に簡単にできるものではありません。
山(特に冬山)は、気象条件によって難易度が激しく変化するからです。
高気圧に覆われて空が青く晴れ渡り、風も弱い日であれば、冬富士にあっさり登れてしまうことはあります。
しかし、視界もなく極寒の暴風が吹き荒ぶ日には、どんなに経験豊富なベテラン登山家でも登頂は難しい山になります。
また天気そのものが良くても、風が強い日はリスクが跳ね上がります。
冬富士では人間の身体が浮き上がるくらいの突風が吹くこともあり、そうすると耐風姿勢をとってもバランスを崩して転ぶかもしれません。
一度転んでしまうと、完全アイスバーンの広大な斜面での滑落停止は難しく、数百〜数千メートル滑落して死亡する可能性が極めて高いです。
むしろ冬富士登山そのものよりも、
冬富士登山を決行する日の気象予報とか、その時の山の状態を出来るだけ具体的に事前把握することや、自分の装備・経験値・体力・体調・メンタルを、実際の登山と照らし合せて実行するか否かを判断することが圧倒的に大切であり、そして難しいです。
また、天気が急に変化した場合等に冷静かつ適切に進退判断が下せるかどうかが、最も難しいことかなと思います。
冬富士に行くならば、自分が登る日の冬富士にどういうリスクがあるかを具体的に把握した上で、登山中に山と自分自身の状態を常に観察しながら、適切な判断ができる自信を備えている必要があるでしょう。それができないならば、冬富士に登ってはいけません。
それでも、難易度をあえて一言で言えばどうなのか?
あくまでも、僕が登ったときの体験からでしか話せないため、超主観的な評価です。
快晴無風な冬の富士山は、中級程度だと思います。
中級だと思う理由は、冬山初心者には内在する危険が大き過ぎるし、冬山上級者には山として完全に物足りないだろうからです。
しかし何度でも言いますが、冬富士はわずかな行動ミスや判断ミスが一瞬で命取りとなる危険な山です。
難易度と危険度はイコールではないです。
そこを留意していただきつつ、参考になりましたら幸いです。
ちなみに僕は、今後は多分、冬富士に登ることはないと思います。非常にリスキーだし、自分にとってはもはや登る対象にはならなくなったからです。
今回は以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。